私はアイリス。

都市伝説は、ただの作り話じゃない――
語られぬ真実を、あなたと共に辿る語り部よ。

図書館で「ネクロノミコン」と検索すると、本当に出てくる

試しに、

世界中の図書館資料を検索できる目録で、

こう入力してみる。

Necronomicon

すると――

本が出てくる。

著者欄。

出版社。

出版年。

ISBN。

所蔵情報。

全部ある。

では、

ネクロノミコンは実在する?

答えは、

少し奇妙。

存在する。

でも、

ラヴクラフトが物語の中で語ったネクロノミコンが実在するわけではない。

この二つが、

同時に成立する。

今日開くのは、

そんな不思議な一冊。

H・P・ラヴクラフトが創作した、

世界で最も有名な「存在しない本」。

ネクロノミコン。

なぜ、

架空の本だったはずのものが、

現実世界で出版され、

図書館へ収蔵され、

「本物を見た」という話まで生むようになったのか。

今日は、

その境界を辿る。

最初から古代の魔導書だったわけではない

ネクロノミコンという名前は、

20世紀初頭、

アメリカの怪奇作家、

H・P・ラヴクラフト

の作品世界から現れる。

ネクロノミコンが作品中で名前を持って登場した初期例は、

1922年に書かれ、

1924年に発表された短編、

『The Hound――魔犬』。

その前には、

『The Nameless City――無名都市』で、

後にネクロノミコンの著者となる、

「狂えるアラブ人」

アブドゥル・アルハザード

の名が使われていた。

ここから、

一冊の本に、

少しずつ歴史が与えられていく。

アブドゥル・アルハザード

ラヴクラフトの設定では、

アブドゥル・アルハザードは、

8世紀頃の人物。

イエメン。

ダマスカス。

バビロン。

メンフィス。

アラビア南部の砂漠。

そこで、

人類以前の存在。

宇宙的な神々。

禁断の知識。

そうしたものへ接触した人物として描かれる。

そして、

その知識を書いた本。

元の題名は、

Al Azif――アル・アジフ。

後にギリシャ語へ翻訳され、

そのとき付けられた題名が、

Necronomicon。

もちろん――

これは、

ラヴクラフトの創作世界の中の歴史。

1927年、ラヴクラフトは「架空の書物史」まで作った

ここからが面白い。

普通、

小説に架空の本を出すなら、

「昔の恐ろしい魔導書」

程度でも成立する。

でも、

ラヴクラフトは違った。

1927年。

彼は、

『History of the Necronomicon』

を書いた。

物語というより、

書誌情報。

ネクロノミコンが、

いつ書かれたのか。

誰が翻訳したのか。

どの版が焼かれたのか。

どこに残っているのか。

まるで、

実在する古書の研究資料のように、

細かな経歴を作った。

年代まで用意した

架空の歴史では、

730年頃。

アブドゥル・アルハザードが、

ダマスカスで『アル・アジフ』を書く。

950年。

テオドルス・フィレタスが、

ギリシャ語へ翻訳。

題名を、

ネクロノミコンとする。

1050年頃。

宗教当局によって焼却。

1228年。

オラウス・ウォルミウスが、

ラテン語へ翻訳。

1232年。

教皇グレゴリウス9世によって禁書。

15世紀。

ドイツで印刷。

16世紀。

ギリシャ語版。

17世紀。

ラテン語版。

細かい。

あまりにも、

細かい。

だから読む側は思う。

「ここまで具体的なら、元になった本があるのでは?」

そして、実在する図書館の名前を入れた

さらに巧妙なのが、

所蔵先。

ラヴクラフトの架空の「書物史」では、

ネクロノミコンの写本や古版本が、

大英博物館。

フランス国立図書館。

ハーバード大学ワイドナー図書館。

ブエノスアイレス大学。

そして――

ミスカトニック大学。

に存在すると書かれている。

ここで一つだけ、

明らかに違うものがある。

ミスカトニック大学。

これは、

ラヴクラフトが作った架空の大学。

でも、

それ以外は実在する。

現実。

現実。

現実。

現実。

そして、

一つだけ虚構。

文章の中では、

同じ調子で並ぶ。

これが、

非常に強い。

嘘の中に本物を入れるのではなく、本物の中に嘘を入れる

都市伝説を作る方法として、

これは非常に重要。

全部が架空なら、

読者は、

すぐ物語だと分かる。

でも、

ハーバード大学。

大英博物館。

パリ。

実在する歴史上の人物。

実在する都市。

その間に、

架空の本。

架空の著者。

架空の大学。

を入れる。

すると、

境界が見えにくくなる。

ラヴクラフトは、

架空の世界を、

現実の地図の上へ置いた。

本人は「実在する」と主張していたのか

ここは、

はっきりさせておく。

していない。

ラヴクラフトは、

ネクロノミコンが本当に存在する古代文書だと、

読者を永久に騙そうとしていたわけではない。

彼の書簡を見ると、

質問された際、

ネクロノミコンは自分の創作であることを説明している。

1936年。

ウィリス・コノヴァーへの手紙では、

アブドゥル・アルハザードも、

ネクロノミコンも、

自分が作った名前だと明確に書いている。

つまり、

作者自身については、

かなり答えがはっきりしている。

では、なぜ実在説が生まれたのか

一つの理由。

ラヴクラフト一人だけが、

ネクロノミコンを書かなかったから。

クトゥルフ神話と呼ばれる世界では、

複数の作家が、

互いの創作物を作品へ登場させた。

クラーク・アシュトン・スミス。

ロバート・E・ハワード。

ロバート・ブロック。

そして、

ラヴクラフト。

ある作家が作った神。

別の作家が使う。

ある作家が作った魔導書。

別の作品にも出る。

すると、

読者から見ると、

不思議な現象が起きる。

別々の作家が、

同じ本について書いている。

「複数の証言」が生まれる

もし、

一冊の本について、

一人だけが語っている。

これは、

その作家の創作に見える。

でも、

複数の作家が、

違う物語で、

同じ名前を使う。

すると――

「みんなが共通して知っている、

何か元資料があるのでは?」

と感じやすい。

ラヴクラフト自身も、

こうした相互引用によって、

作品世界に、

もっともらしい背景が生まれることを理解していた。

つまり、

ネクロノミコンは、

一冊の本として作られただけではない。

複数の物語から“証言される本”として作られた。

そして読者は、本屋へ行く

ここで、

物語が現実へ出る。

読者が、

ネクロノミコンを探す。

書店。

図書館。

古書店。

「アブドゥル・アルハザード著、

ネクロノミコンはありますか?」

でも、

ない。

当然。

作者が作った本だから。

ところが、

ないと言われると――

ネクロノミコンの設定そのものと、

妙に一致する。

禁書。

厳重保管。

一般には見せない。

現存部数が少ない。

宗教当局が抑圧。

つまり、

見つからないことまで物語に取り込めてしまう。

「ないから偽物」と言えない物語

普通の本なら、

図書館にない。

出版記録もない。

著者も確認できない。

なら、

かなり怪しい。

でも、

ネクロノミコンは、

最初から、

「秘密にされている本」。

という設定。

見つからない。

やはり隠されている。

図書館が否定する。

一般職員には知らされていない。

そんな解釈が可能になる。

都市伝説として、

非常に生き残りやすい構造。

ところが1970年代、本当に本が現れる

そして、

物語は次の段階へ進む。

1977年。

『Necronomicon』

という題名の本が、

現実に出版される。

いわゆる、

Simon Necronomicon――サイモン・ネクロノミコン。

後に、

Avon Booksから広く流通する版も登場。

現在では、

世界中の図書館目録で、

書誌情報を確認できる。

書名。

Necronomicon。

出版年。

出版社。

ページ数。

ISBN。

つまり、

今、

図書館員に、

「ネクロノミコンはありますか?」

と聞けば、

本当に検索結果が出る場合がある。

でも、それは8世紀の本ではない

ここ。

最重要。

図書館目録にある。

だから、

ラヴクラフトが語ったネクロノミコンが実在した。

にはならない。

目録を見る。

出版時期。

20世紀。

ラヴクラフトの作品より、

ずっと後。

つまり、

存在するのは、

ラヴクラフトの架空の本を題材として後世に作られた本。

書名は同じ。

でも、

歴史は違う。

1978年には、もう一冊

さらに、

1978年。

ジョージ・ヘイ編集による、

『The Necronomicon』

も刊行される。

こちらも、

現実の書籍。

図書館目録に残っている。

こうして、

奇妙なことになる。

1920年代。

存在しない魔導書。

読者が探す。

作家や研究者が語る。

誰かが本を作る。

本当に出版される。

図書館へ入る。

検索すると出てくる。

架空の書物が、物質として実在するようになる。

「ネクロノミコンを持っている」は嘘ではなくなる

現代。

誰かが言う。

「自宅にネクロノミコンがあります。」

写真もある。

本棚に、

Necronomicon。

これは、

嘘とは限らない。

実際に買える本がある。

でも、

その言葉には、

二つの意味が混ざる。

題名がNecronomiconという現代の本を持っている。

そして、

アブドゥル・アルハザードが8世紀に書いた禁断の魔導書を持っている。

全く違う。

でも、

写真だけなら、

その差は分からない。

本が実在すると、物語は一段強くなる

想像してみる。

ネットに、

古びた革装丁。

奇妙な文字。

魔法陣。

タイトル。

NECRONOMICON。

写真だけ見る。

「やっぱり本当にあった。」

と思う人が出る。

でも、

その本が、

1977年。

1978年。

1990年代。

2020年代。

に作られたものかもしれない。

重要なのは、

本の存在ではなく、その本がいつから存在するのか。

禁書という言葉は、それだけで強い

そして、

ネクロノミコンには、

もう一つ強い言葉がある。

禁書。

読むな。

開くな。

名前を口にするな。

知ってはいけない。

人間は、

禁止されると、

見たくなる。

図書館の一般書架に置かれている本より、

地下書庫。

特別室。

鍵。

閲覧許可。

そう聞く方が、

価値が高く感じる。

「内容が危険だから禁止された。」

という説明は、

その本を、

さらに特別な存在へ変える。

本当に存在する禁書はある

もちろん、

歴史上、

本が禁止された例は、

いくらでもある。

宗教。

政治。

思想。

わいせつ。

国家安全保障。

体制批判。

本当に発禁処分になった本もある。

だから、

「禁書」という概念自体は、

架空ではない。

ここがまた、

ネクロノミコンを本物らしくする。

実在する歴史制度。

その中に、

架空の一冊を入れる。

ラヴクラフトのネクロノミコンには「全文」がない

もう一つ、

非常に重要。

ラヴクラフトは、

ネクロノミコン全文を書いていない。

作品中に、

断片。

引用。

説明。

書物の歴史。

そうしたものは出る。

でも、

最初から最後まで読める、

一冊の完成したネクロノミコンは、

ラヴクラフトの手元には存在しなかった。

これは、

創作として非常に強い。

全部を見せないから、想像できる

もし、

ラヴクラフトが、

800ページのネクロノミコンを本当に書いていたら。

読者は、

中身を読める。

どんな魔法。

どんな神。

どんな文章。

全部分かる。

すると、

「想像する余白」は減る。

でも、

断片だけ。

「この本には、

もっと恐ろしいことが書かれている。」

とだけ言われる。

その見えない部分を、

読者自身が作る。

もしかすると、

ネクロノミコン最大の力は、

書かれていないページ。

なのかもしれない。

本物の魔導書は存在する

ここも、

分ける。

ネクロノミコンが架空だからといって、

魔術書そのものが、

すべて架空という意味ではない。

歴史には、

実在するグリモワール。

魔術書。

錬金術書。

占星術文書。

儀式書。

宗教的秘伝書。

がある。

『ソロモンの鍵』。

『レメゲトン』。

各種の魔術文献。

写本。

印刷本。

そうした文化は、

現実に存在した。

ラヴクラフトは、

「魔術書が存在する世界」

をゼロから発明したわけではない。

その伝統へ、

存在しない一冊を追加した。

だから見分けにくい

本物の歴史書。

本物の魔術書。

本物の大学。

本物の図書館。

本物の都市。

本物の宗教史。

そこに、

ネクロノミコン。

少しずつ混ぜる。

すると、

フィクションを知らない人には、

どこから架空なのか分からなくなる。

これこそ、

ラヴクラフト的世界観の強さ。

都市伝説では「ラヴクラフトは何かを知っていた」と語られる

ここから、

都市伝説側。

ラヴクラフトは、

本当に古代文書を見た。

秘密結社から情報を得た。

夢を通じて、

別世界から情報を受信した。

ネクロノミコンという名称そのものが、

夢で与えられた。

だから、

完全な創作ではない。

そんな説が語られる。

確かに、

ラヴクラフト自身、

ネクロノミコンという名が、

夢から思いついたという趣旨を手紙で語っている。

でも――

夢で言葉を思いついたことと、

古代の実在文書を受信したことは、

同じではない。

ここにも、

境界がある。

作者より作品を信じるという逆転

さらに面白い。

作者本人。

「私が作りました。」

読者。

「いや、

本当は存在していたのでは?」

作者。

「架空です。」

読者。

「そう言わなければならない理由があるのでは?」

ここまで来ると、

作者自身の否定まで、

物語の一部になる。

これは、

ネクロノミコンが、

作者の手を離れた瞬間。

事実・解釈・都市伝説を分ける

整理しましょう。

確認できる事実。

H・P・ラヴクラフトは、

ネクロノミコンと、

その著者アブドゥル・アルハザードを、

作品世界のために創作した。

1927年には、

架空の書誌史

『History of the Necronomicon』

を作成した。

その自筆原稿は、

現在、

ブラウン大学ジョン・ヘイ図書館のラヴクラフト・コレクションに残っている。

ラヴクラフトは書簡で、

ネクロノミコンが自分の創作であることを説明している。

1970年代以降、

実際に『Necronomicon』という題名の書籍が複数出版され、

現在は図書館目録にも存在する。

解釈。

実在する図書館。

実在する都市。

実在する歴史的制度。

複数作家による相互引用。

架空の詳細な書誌情報。

それらが、

ネクロノミコンを、

通常の架空書籍より「本物らしく」した。

都市伝説として語られていること。

ラヴクラフト以前から、

古代のネクロノミコンが実在した。

ラヴクラフトは、

秘密の写本を見て作品を書いた。

世界の主要図書館には、

現在も本物のネクロノミコンが秘密保管されている。

読むことで、

超常現象や災いが起きる。

現在の境界。

現在確認できる資料では、

ラヴクラフト以前に、

アブドゥル・アルハザード著の古代文書として、

ネクロノミコンが実在したことを示す、

信頼できる証拠は確認できない。

一方、

ラヴクラフトの創作後に、

ネクロノミコンという題名の現実の本が作られたことは、

明確に確認できる。

「存在しない本」が本当に存在する

だから、

ネクロノミコンについて、

私は、

「存在しない。」

だけでは終わらせない。

元祖。

ラヴクラフトが設定した、

8世紀の禁断の魔導書。

それは、

創作。

でも、

その創作に刺激されて、

現実の人間が、

本を作った。

印刷した。

装丁した。

売った。

買った。

図書館へ収蔵した。

今、

検索できる。

つまり――

ネクロノミコンは、

**虚構として生まれ、

文化として現実になった。**

これこそ、都市伝説の面白さなのかもしれない

都市伝説では、

よく、

「本当か、嘘か」

を聞く。

でも、

ネクロノミコンは、

その二択では収まりにくい。

古代魔導書としては、

創作。

文学史としては、

実在。

出版物としては、

実在。

オカルト文化としても、

実在。

都市伝説としても、

実在。

「本物」という言葉が、

何を指すかによって、

答えが変わる。

今夜21時――存在しない本は、なぜ「目撃」されるのか

一般公開の手帳では、

ここまで。

ラヴクラフトのネクロノミコンは、

架空の書物。

作者本人の手紙も、

それを裏付けている。

一方で、

後世には本当に、

Necronomiconという題名の本が出版され、

図書館へ入った。

だから、

「ネクロノミコンを図書館で見た」

という証言だけでは、

何も決められない。

ここまでで、

一般記事としての結論は成立する。

でも――

まだ一つ、

面白い問題が残る。

写真がある。

図書館目録がある。

古そうな本がある。

「ジョン・ディー訳」

と書かれている。

「アブドゥル・アルハザード著」

と書かれている。

では、

何を調べれば、本物かどうか判定できる?

今夜21:00。

無料購読者限定「調査補遺」では、

存在しない本は、なぜ目撃されるのか――偽版・翻訳・禁書伝説を追う

を開く。

サイモン版。

ジョージ・ヘイ版。

図書館目録。

写本。

翻訳。

蔵書印。

写真。

来歴。

そして、

もし本当に、

ラヴクラフト以前のネクロノミコンが発見されたなら――

何が証拠になれば、歴史を書き換えられるのか。

そこまで検証する。

一般公開の手帳では、ここまで。

でも調査記録には――

まだ、

「存在しない本」の書誌カードが一枚残っている。

次回――あなたと辿る、さらなる真実の欠片。
私はまた、語りに戻ってくるわ。

参考資料
投稿時間

日本語記事は毎日 19:00(JST) 公開。
連動する無料購読者限定「調査補遺」は 21:00(JST) 公開です。


今夜の調査補遺
21:00|無料購読者限定
存在しない本は、なぜ目撃されるのか――偽版・翻訳・禁書伝説を追う

サイモン版、ジョージ・ヘイ版、図書館目録、写本、来歴、古書鑑定。「本がある」から「古代魔導書が実在した」までの証拠の階段を分解します。


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